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~目次~
1.2021 年度第 1 回研究会参会記 ................................................................................. 1
2.AUDELL Journal 創刊号募集開始!!学会誌募集のご案内 ............................................. 3
3.書籍紹介 ............................................................................................................ 4
4.編集後記 ............................................................................................................ 6
1.2021 年度第 1 回研究会参会記
●「聴覚障害児の言語指導の現状」 長南浩人先生 筑波技術大学
聴覚障害学習者への合理的配慮は,視覚情報の工夫,拡充だけではなく,聴覚情報の利用も有用であ
る。昨今は,補聴器や人工内耳といった補聴機器の性能が向上し,さらに医学の発展により誕生後早い段
階で聴力の障害の発見と療育の開始が可能になったこともあり,聴覚障害を持つ学習者でも残存聴力を
以前よりも有効に使って聴き取ることが可能となっている。聴覚障害学習者=全く聴こえないという者
は少ない。
言語教育は,耳から音声を入れてあげることが必要であり,聴覚障害児に対する英語指導にも音声を利
用することは有用である。英語の音声を繰り返し聴かせ,発声させるということを繰り返すことを通し
て,学習者の発話も流暢さが増すなど,指導の効果が見られる。
ただし,やはり健聴児の聴こえとは同等ではなく,聴き取り困難音や異聴傾向の音もあるので,聴取環
境の整備や補助手段(文字,指文字,キューサイン口形)の利用といった合理的配慮が必要である。また,
聴覚障害児は音韻的短期記憶の弱さがあるので,健聴児より多く聴かせる,発話させることが必要であ
英語教育ユニバーサルデザイン研究学会(AUDELL)
AUDELL 会報 Vol.5(2021.8 月 27 日発行)
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る。加えて聴覚障害児は音韻的記憶と視覚的記憶の統合が十分でなく,音と文字との合定がうまく行か
ない原因の一つと考えられる。これらの課題に対しては,多感覚利用による言語記憶の保持が効果的で
あり,このことの繰り返しは,読み書きの力にもつながることと考えられる。
書く,読むことには,音韻意識を育てることが重要である。聴覚障害児は音韻意識の習得が可能かどう
か議論されることがあるが,音声の入力により聴覚障害児の音韻意識の発達は,より効率的になされる
ことが明らかにされている。文字の使用は,健聴児同様に音韻意識の発達と相補的関係にある。ただし,
文字を使用する場合は,話し言葉の入力を確実に行うことに留意すべきである。
聴覚障害児への英語指導では,英語をはっきりと認識させ,より多く聴かせ,より多く発話させ,補助
手段の活動を学習者の実態に応じて行う。聴こえていないと思いこまず,学習者の成長のために,ことば
の音を繰り返し聴かせることを指導者も覚悟をもって指導に臨むことが求められる。
●「通常学級に在籍する聴覚障害児童への英語音声指導の取り組み ー発音口形を「見る」傾聴姿勢は聴
児へのお手本になる!ー」 河合裕美先生 神田外語大学
通常学級には様々な支援を必要とする児童,生徒が増えていると報告されている。授業者として通常学
級で外国語を指導するなかで,在籍する聴覚障害児童に聞き取りづらい場合にカタカナで書いて示すこ
とで支援をしている様子を目の当たりにし,英語音声のままで指導することができないのか,外国語授
業中の音環境を改善することはできないのか,と考えたのが本研究の出発点である。本日は,聴覚障害児
童が学ぶ外国語授業の音環境の実態を示し,彼らの注視の特徴と指導の効果,英語音素の知覚・産出能力
の特徴,明示的音声指導方法,合理的配慮や支援策について触れたい。
外国語授業中の騒音値調査では,低学年用英語ルームが一番高く,高学年通常教室,きこえ教室でも,
60~70db 程度で集中力の低下を危惧される騒音レベルであった。英語以外の他教科においても,騒音値
が高く,配慮が必要と言える。英語授業中の騒音値を活動別に分析すると,やり取りやインタラクション
では児童が目標表現を対話者と話す活動のため,一斉に静かになることはないが,発音指導の際には,児
童が教師の発音に注目する際に一斉に静かになる。また,そのような「静けさ」を実現する傾聴姿勢を指
導することが必要である。よって,活動別に具体的な支援をすることが可能である。
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聴覚障害児童は,教師を目で追う注視型,目線が合わない知識追及型,指導によって改善する型に分か
れるが,視覚保障することで,児童は視覚的学習方略を構築し,傾聴姿勢ができることが英語音素の知覚
や産出能力の向上に結びついていくと思われる。言語によって周波数が違い,英語は日本語に比べて周
波数が高いことから,特にその高い周波数域に属している摩擦音や破擦音は,聴覚障害児には聞き取り
にくい。こういったことが語彙学習にも影響し,聴覚障害学習者の単語力の弱さにつながっているとい
える。このように,摩擦音や破擦音は,聴覚障害児には聞こえにくく,発音しにくいために獲得しにくい
ものであるが,聴き取り訓練を継続的につづけることによって傾聴姿勢を形成させ,意味のある言葉の
中で構音指導することで構音できるようになった事例もある。また,音声学的言語の違いが影響するこ
ともあり,日本語にないものは聞こえづらく,聞こえづらいので構音方法がわからず定着しない,といっ
た悪循環が生じてしまう。
ワークショップでは,ミニマムペアの英単語の聴き取りを行い,実際にどんな音が聞こえづらいのかを
参加者が体験し,グループで話し合った。児童,生徒が経験する難しさを実際に体験することで,音の指
導順序を考えてほしい。英語音素の明示的な指導順序は,日本語母語の聴児・聴覚障害児ともに母音の方
が習得しにくいので,子音から母音へ指導する。子音では,口形のわかりやすい破裂音や鼻音から始め
て,聞こえづらい摩擦音と破擦音に移り,そして半母音や側音,母音へ移る。前半は,継続的に繰り返し
続け,後半へ続けていくことが大切である。高学年においては,文字知識と結びつけながら,音素・音韻
認識を高め,語彙や表現に関わる知識を高めていくことが必要である。単に発音指導をしているのでは
なく,コンテクスト(文脈)を使った指導が必要であり,「見る」傾聴姿勢を徹底して育成することが大
切である。
通常学級での合理的配慮や支援策は,聴覚障害児童だけでなく,すべての児童に見る+聴く傾聴姿勢を
徹底することで,他の特性のある児童やすべての児童にとっても有効なものとなり,すべての児童の支
援にも通じる。
報告者:飯島睦美(群馬大学)
2.AUDELL Journal 創刊号 募集開始!! 学会誌 募集 の ご案内
ついに学会誌が創刊されることになりました!
「多様な教育的ニーズのある学習者への英語教育の質的向上を図る目的で執筆された,関連する多様
な領域における」研究論文・実践報告を奮ってご応募ください!
以下、投稿規定・執筆要領 の概要です。
●AUDELL Journal 創刊号投稿規定 ・執筆要領概要
・原稿提出期間:日本時間で 2021 年 9 月 1 日(水)0 時~2021 年 9 月 30 日
(木)23 時 59 分まで。
・第一著者は本学会会員であること
・原稿枚数は 6 ページ以上, 16 ページ以内
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・同一投稿者が複数の原稿を投稿することを妨げない。ただし,第一著者としての論文は1編のみ。
・日本語フォント MS 明朝 英語フォント Times New Roman 、本文は 10.5 ポイント
題目 は 18 ポイント( 英訳題目も 18 ポイント) 見出しは 12 ポイント
・テンプレートはこちらから ダウンロードできます。⇒https://audell.org/?page_id=3026
・キーワード 3 語, 要旨の長さは和文・英文ともに 10~15 行
・提出方法:原文 (ワード版と PDF 版の両方) と査読用 (ワード版と PDF 版の両方)を以下に提出
提出先: audelljournal2021 アット gmail.com (「アット」を「@」に置き換えて下さい)
・執筆要項:詳細はこちらからチェック ⇒ https://audell.org/?page_id=3024
・問い合わせ先: 英語教育ユニバーサルデザイン研究学会誌( AUDELL Journal )編集委員会
委員長 加藤 茂夫 E-mail: audelljournal2021 アット gmail.com
・こちらから募集の宣伝 動画をご覧になれます。⇒ https://www.youtube.com/watch?v=FwMqZQqWNM0
3.書籍紹介
『個に応じた英語指導をめざして~ユニバーサルデザインの授業づくり~』
村上加代子 (2021) くろしお出版
「先生,この『ラケ』っていう単語,どういう意味ですか?」私が中学校の英語教員になったばかり
の頃,高校受験を数か月後に控えた中学校 3 年生の生徒が,まじめな顔でそう尋ねてきました。皆さ
ん,お分かりですね。この生徒が尋ねた英単語は lake だったのです。私がその時,村上先生の書かれ
た本書に出会っていたならば,この生徒のために少しでも確かな支援の手を差し伸べてあげることがで
きたかもしれません。しかし,残念ながら,その時の私は,彼のために何の手立ても示してあげること
ができませんでした。
村上先生は長年,学習障がい(Learning Disability : LD)の子どもたちに,英語の指導を行ってき
ました。一方で,子どもたちが,どのような学習上の困難さを持っているかを学ぶために,特別支援教
育士の講座も受講しました。本書の「はじめに」で,村上先生は次のように書いています。
子供の理解や教材の分析は,指導の根拠となる “WHY”から,指導選択の “HOW”につながります。以
後,「こう教えよう」と決める前に,「どこにつまずきやすいのだろうか」「どうすれば学びやすいのだ
ろうか」と考え,いくつもの指導の選択肢を準備するようになりました。【本書 p.3】
本書は,学習者側の視点に立ち,特別な支援を必要とする子供たちだけでなく,教室で学ぶ全ての子
どもたちのために,全ての校種の教師が大切にしなければならない視点が大切に書かれていることがわ
かります。
第1部は「ユニバーサルデザインを意識した読み書き指導」について書かれています。ここでは特
に,現場での実践的な指導例に基づいた指導のためのアイディア満載です。第2部は「読み書きでつま
ずかせないためのセオリー」ということで,主に教育におけるユニバーサルデザインやインクルーシブ
教育について書かれています。
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第1章では,「指導案作成の前に知っておきたいこと」というタイトルで,一人一人の学習特性に合
わせた,個別指導に最適な柔軟な指導案の重要性について述べられています。学校の先生は熱心で真面
目な方が多いので,一度決めたら最後までやり通す強い意志をもって指導をされる傾向があるように思
います。しかし,本書では,実際の指導場面で,子どもたちの学習特性に合わせて,柔軟に対応できる
学習者ファーストの視点も重要であることが紹介されています。
第 1 章に続いて,第 2 章「ローマ字の読み書き指導」,第 3 章「アルファベットの文字指導」,第 4 章
「アルファベットの音(おん)指導」,第 5 章「音韻意識指導」,第6章「基本的な単語の読み書き指
導」というように,段階的にリテラシー指導が深められるよう,スモールステップを踏んだ章立てにな
っています。
ローマ字は,小学校 3 年生の国語科で学習しますが,指導時数が限られており,外国語活動でのアル
ファベット学習と効果的な連携ができているとは言えません。第3章ではローマ字学習で,子供がつま
ずく原因を分析し,それらを生かして,アルファベットの文字指導に効果的につなげることができるよ
う,具体的な文字指導のアイディアが満載です。現場の先生方にはきっと役立つことでしょう。
また,第 4 章から第 6 章では,アルファベットの音(おん)への意識を高め,日本語と英語の音韻体
系の違いを意識して行う読み書き指導について書かれています。これは,本書の中心となる極めて重要
なコンセプトです。特に,音韻意識と音韻操作を身に付けるために,「聞く」ことを大切にすること
や,他感覚を用いた指導を行うこと,子どもの気付きを支援することなど,入門期の外国語指導で大切
にしたいポイントが明示されています。
第 2 部では,読み書き指導を支える理論編として,インクルーシブ教育,教育におけるユニバーサル
デザイン,障がい者の権利と合理的配慮,ディスレクシアと英語の読み書き指導,日本における英語の
音韻意識指導,英国での読み書き指導など,専門的な内容がわかりやすく解説されています。
私が,これらの章で最も注目した2点について紹介します。1 点目は,第 2 章「教育におけるユニバ
ーサルデザイン」で,英米での授業のユニバーサルデザインに関して述べられた次の部分です。
日本と英米では事情が違うことを考慮したとしても,取り組む前から「特別支援をどうしようか」と考
えるのではなく,まずは子どもたちの「違い」が学習のつまずきにならないように工夫をすること(後
略)【本書 p.106】
英米では,子どもはそれぞれ発達特性に違いがあることが当たり前であり,全員が同じ土俵で学べる
ことが普通であるという前提で教育が行われている点です。今後,個に応じた指導のあり方や,インク
ルーシブ教育の視点など,日本が学ぶべきことが多くあるのではないでしょうか。
2 つ目が,第 8 章「子ども目線の読み書き指導」に書かれた次の部分です。
上記の様に,学習指導要領には音と文字の学びの体系的な習得等について明記されていないため,単語
指導は従来のようにスペルと音声を覚えさせる暗記型の指導が行われる可能性が高いでしょう。です
が,それでは多くの生徒が困ります。(後略)【本書 p.159】
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小学校中学年から外国語活動が開始され,早期からアルファベットへの慣れ親しみができるようにな
りました。また,高学年の外国語科では,徐々にではありますが,「読むこと」「書くこと」の指導が開
始されています。これまで,中学1年生でいきなり文字に出会い,すぐに単語や英文の書写にすぐに単
語や英文の書写の指導に発展していた時代とは異なり,小学校 4 年間かけた時間をかける文字指導が可
能になったのです。
本書で紹介された,村上先生や,現場で素晴らしい実践をされている先生方の珠玉の実践例が,小学
校外国語(活動)の現場で活用されることで,文字との幸せな出会いを体験した子どもたちが,中学校で
自信をもって英語の読み書きができるようになることを祈って止みません。
そのためにも,特に小中学校の現場で,入門期の英語教育に関わる全ての指導者の方々や保護者のみ
なさん,そして教師を目指す学生のみなさんにもぜひ,本書をお勧めしたいと思います。
報告者:加藤拓由(岐阜聖徳学園大学)
4.編集後記
感染症拡大が心配される毎日ですが,会員の皆様お元気でお過ごしでしょうか?会報第 5 号をお届け
します。今回は 2021 年度第 1 回研究会の参会記,学会誌募集のご案内,書籍紹介,Q&A となります。
第 1 回研究会は,聴覚障害と英語教育について長南浩人先生(筑波技術大学)・河合裕美先生(神田
外語大学)に御登壇いただき,飯島睦美先生(群馬大学)に研究会の様子をご報告いただきました。
いよいよ AUDELL 紀要の発刊が決定しました。皆様奮ってご応募ください!
書籍紹介は,村上加代子先生(甲南女子大学)待望の新刊を加藤拓由先生(岐阜聖徳学園大学)にご
紹介いただきました。
Q&A は今更ながらですが,「合理的配慮」について再確認という意味で回答させていただきました。英
語教育分野での「合理的配慮」がもっと具体化すると,現場の先生方も活動しやすくなると思います。
今回は,特に聴覚障害についてフォーカスしましたが,今後は様々な面における具体的な活動について
ご紹介できればと思います。
会報チームは皆様からのご意見や投稿を反映し,より会員の皆様のニーズに即した誌面を作っていき
たいと思っております。是非皆様のお声をお届けください!
(会報編集委員会)